韓ドラ深掘りノート

韓国ドラマが映す育児と仕事のリアル:両立の重圧と家族の形を深掘り

Tags: 育児と仕事, 共働き夫婦, 家族観, 社会規範, ジェンダー, 働く女性, 働く男性, 韓国社会, 現代家族, ドラマ分析

韓国ドラマが映す育児と仕事のリアル:両立の重圧と家族の形を深掘り

現代社会において、仕事と育児の両立は多くの家庭にとって避けて通れない大きな課題となっています。特に韓国では、女性の高学歴化と社会進出が進む一方で、依然として根強い伝統的な家族観や長時間労働といった社会構造が存在するため、働く親たちが直面する葛藤は複雑かつ深刻です。

韓国ドラマは、こうした現実を映し出す鏡として、育児と仕事の狭間で揺れる人々の姿をリアルに描き出してきました。単に仕事が大変、育児が大変というだけでなく、それが家族関係、夫婦間の役割分担、親子の絆、さらには個人のキャリアや自己肯定感にどう影響するのかを多角的に描いています。本稿では、いくつかの具体的なドラマ例を挙げながら、韓国ドラマが映し出す育児と仕事の両立がもたらす重圧と、それが変容させる家族の形について深掘り考察します。

働く母親が直面する「経歴断絶」と「ワンオペ育児」

韓国社会において、特に女性が育児と仕事を両立する際にしばしば直面するのが、「経歴断絶(경력단절、キョンニョクタンジョル)」の問題です。これは、出産や育児を機に離職せざるを得なくなり、キャリアが中断されてしまう状況を指します。再就職の難しさや、復帰しても以前と同等のポジションや給与を得られないといった現実が、働く女性にとって大きな壁となっています。

例えば、ドラマ『ミセン -未生-』に登場するアン・ヨンイの描写は、間接的ではありますが、女性が職場で評価されることの難しさや、プライベート(将来的な結婚・出産)がキャリアに影響しうるという社会の側面を示唆しています。また、多くのホームドラマや専門職ドラマでは、バリバリ働く女性が仕事で成功する一方で、家庭内では育児や家事を一人で背負い込み、「ワンオペ育児(독박육아、トクパクユガ)」の状態に陥る姿が描かれることがあります。

これは、「母親たるもの、子供の世話は主に見るべきだ」という伝統的な母親像が根強く残っていること、そして職場の育児支援制度(育児休業取得の難しさ、柔軟な働き方の選択肢の少なさなど)が十分でないことなどが複合的に影響しています。ドラマ『知ってるワイフ』で描かれるウジンの疲弊した日常や、彼女がキャリアを諦めた経緯には、こうした韓国社会の現実が色濃く反映されていると言えるでしょう。彼女の「もしあの時、違う選択をしていたら…」という後悔は、多くの働く母親の共感を呼びました。

変化する父親の役割と「イクメン」の登場

一方、男性(父親)の役割にも変化が見られます。伝統的な家父長制のもとでは、父親は家族を経済的に支える大黒柱であり、育児や家事は主に母親の役割とされてきました。しかし、現代の韓国ドラマでは、育児に積極的に関わろうとする「イクメン」タイプの父親も描かれるようになっています。

ドラマ『椿の花咲く頃』のファン・ヨンシクは、シングルマザーのドンベクとその息子ピルグに対して、血縁に関わらず深い愛情を注ぎ、時には従来の父親像を超えた形で育児や生活に関わろうとします。また、『賢い医師生活』に登場する医師たちは、多忙な専門職でありながらも、子供との時間を大切にしようと奮闘する姿が描かれます。イクジュンが息子ウジュと過ごす日常や、ジョンウォンが子供好きな一面を見せる様子などは、現代の働く父親たちが仕事の合間を縫ってでも育児に関わろうとする努力や、そこで得られる喜びを示しています。

しかし、こうした「イクメン」が特別な存在として描かれがちな現状は、まだまだ男性の育児参加が社会全体に浸透しているとは言えない韓国社会の現実を示唆しているとも言えます。長時間労働が常態化している職場文化や、「男は外で稼ぐもの」というジェンダー規範は、父親が育児や家事にもっと時間を割くことの障壁となっています。ドラマに描かれる父親の葛藤は、個人が意識を変えても、社会構造や職場の理解が伴わなければ、真の両立は難しいという現実を浮き彫りにしています。

社会制度と家族のリアルな課題

育児と仕事の両立は、個人の努力だけで解決できる問題ではなく、社会制度やインフラ整備が不可欠です。韓国でも少子化が深刻な社会問題となる中で、政府は様々な育児支援策を打ち出していますが、その効果や現場での利用実態はドラマでも間接的に描かれます。

例えば、子供を安心して預けられる保育施設が不足している「待機児童問題」や、育児休業制度があっても職場の雰囲気やキャリアへの不安から利用しにくい現実などは、ドラマの登場人物の置かれた状況を通して示唆されることがあります。また、核家族化が進む一方で、共働き夫婦が育児のサポートを親(祖父母)に頼らざるを得ず、「孫育て」が祖父母世代の負担となっている現状も、多くのホームドラマで描かれるリアルな姿です。

ドラマ『応答せよ』シリーズなどでは、過去と現在の家族の形や社会の変化が描かれますが、現代を描くドラマでは、親世代とは異なる価値観を持つ若い世代が、伝統的な育児観や親からの干渉、あるいは親世代への育児サポートの依頼といった形で、世代間のギャップや新たな課題に直面する様子が描かれています。

結論:ドラマが問いかける現代家族のあり方

韓国ドラマは、育児と仕事の両立という普遍的なテーマを通して、現代韓国社会の家族が直面する多層的な課題を浮き彫りにしています。働く母親が背負うキャリアと育児の重圧、変化しようとする父親の役割、そしてそれを取り巻く社会制度や伝統的な価値観との軋轢。これらは、単に特定の個人の問題ではなく、家族という最小単位の共同体が、急速に変化する社会の中でどのように形を変え、絆を保とうとしているのかという大きな問いにつながります。

ドラマに描かれる登場人物たちの葛藤や選択は、視聴者である私たち自身の状況や価値観を振り返るきっかけを与えてくれます。働き方、家族の役割分担、子供にとっての幸せとは何か。ドラマを通して、私たちは現代社会における「働く親」のリアルと、それに応じて変容していく家族の新しい形、そして社会全体で向き合うべき課題について深く考えることができるでしょう。

あなたにとって、ドラマに描かれる育児と仕事の両立の姿はどのように映りますか?ご自身の経験や考えと重ね合わせて、ぜひさらに考察を深めてみてください。